情報処理学会より依頼された原稿(HI/情報メディア合同研究会 1998年1月予稿集に掲載)。ページ数の制限であまりたいしたことは書いていないがここ に置いておく。(12.21.1997)
暦本純一
株式会社 ソニーコンピュータサイエンス研究所
UIST (ACM Symposium on User Interface Software and Technology[1])は、ユーザインタフェースのソフトウェ ア技術としての側面に主に焦点を当てた国際シンポジウムで、CHIと並んでインタ フェース研究者のコミュニティでは著名な学会のひとつである。CHI が非常に広範囲の問題を扱い、大規模でマルチトラックな「大会」であるのと 対照的に、UISTは小規模(参加者200〜300人程度)、シングルトラックという 形式を採用している。
UIST'97は1997年10月14日から17日までの三日間、カナディアンロッキーの有 名なリゾート都市、アルバータ州のバンフで開催された。実は第1回の UIST(UIST'88)も同じ場所で開催されており、10年目にしてバンフに「戻っ て」きた、ということになる。その10周年を記念した今回の招待講演``Banff to Banff: A UISTful Retrospective'' (Sibert, ジョージワシントン大)は、 UISTの10年を振り返るという内容で、同時に過去10年間のインタフェース研究 の歴史を振り返るという意味もあったと思う。UISTの母体となった、またUIMS の基本的なモデルとして名高い``Seeheim Model''の名称の由来ともなったシー ハイムでの Workshop on UIMS の会議風景など、貴重な映像が上映されてい て興味深かった。
ペーパーセッションでは、27件(内6件はショート)の論文発表が行 なわれた。``3D Interaction Techniques'', ``Collaboration'', ``Constraints''といった従来からあるセクションに加えて、``Picking and Pointing'', ``Blurring Physical and Virtual'' といった ポストWIMP (Window, Icon, Mouse, and Pointing device)を指向し た研 究発表が増えつつあるのが最近のひとつの傾向と言えるだろう。ま た従来のUISTではまず見られなかった「評価オンリー」の論文も登場して、 CHIとUISTの分野としての違いはもはや消滅してしまった。
今回のUISTでは、日本からの発表が多く(5件)、またその内容も優れていた点 をまず報告しておきたい。特に、東大の五十嵐らによる``Interactive Beautification: A Technique for Rapid Geometric Design''は、デモを交え たプレゼンテーションが非常に好評であった。 一方、ヨーロッパからの発表が 皆無であり、米国内の発表のかなりが「常連発表者/常連発表部門」で占められ ている点に若干の危惧を感じる。UISTのフレンドリーな雰囲気が、逆に研究コミュ ニティーを固定化する方向に機能しないことを願いたい。
XeroxのMoranらによる``Pen Based Interaction Techniques for Organizing Material on an Electronic Whiteboard''は、電子黒板上でチャートを整 理するための種々の技法についての発表で、アニメーションを駆使した画 面表現が特に目を引く。NPSのDarkenらの''The Omni-Directional Treadmill: A Locomotion Device for Virtual Worlds''は仮想空間内で歩兵 の訓練を行うための自動制御可能な「床」を実現したという報告。MITの Ullmerらの''The metaDESK: Models and Prototypes for Tangible User Interfaces''は彼らが提唱している``Tangible Bits''の考えを具現化 したシステムで、机に投影された電子情報と、種々の物理的な手段(ブロック やレンズなど)を通じて対話する。最後に、筆者が関係した2件の 実世界指向UIの発表(``Pick and Drop: A Direct Manipulation Technique for Multiple Computer Environments''と``HoloWall: Designing a Finger, Hand, Body and Object Sensitive Wall'')もおおむね好評だったようだ。
パネルセッションでは、''UIST'07: Where will we be 10 years from now?'' と題して今後の10年に向けてのUISTの方向性についての議論が行なわれた。こ こでも話題として多く取り上げられたのは非WIMP型のインタフェース研究への 展望であり、たとえばXeroxのMackinlayは''Physical UI''と称して現実指向の インタフェースを、コロンビア大のFeinerもwearable computerやaugmented realityといった方向について述べていた。
奇しくも, UISTの直前には第1回のWearable Computer シンポジウムが、直後には 第1回のPerceptual User Interface ワークショップそれぞれ開催されており、 WIMP・GUIパラダイムの牙城であったUISTにも、大きな変革の時期が来て いるのかも知れない。